神秘の灯
イスマイル・アンカラヴィー(1631年没)
ルーミーの『精神的マスナヴィー』の注釈者として名声を博した17世紀オスマン朝を代表するメヴレヴィー教団のスーフィー思想家。彼の神秘的存在論にはスフラワルディーの照明哲学、イブン・アラビーの存在顕現説双方の影響が見られるといわれている。
『神秘の灯火』はクルアーン御光章の一節「光の啓示」の解釈をめぐる論考である。「光の啓示」の解釈書としてはアブー・ハーミド・ガザーリーの『光の壁龕』が最も有名であるが、アンカラヴィーの『神秘の灯火』はよりイブン・アラビーの存在顕現説の影響が色濃く出たものとなっている。
「光の啓示」
《アッラーは諸天と地の光にあらせられる。彼の光の譬えは壁龕のようで、その中には灯火があり、その灯火は西方のものでもなく東方のものでもない祝福されたオリーブの木で灯されている。その油は火がそれに触れなくても輝かんばかりである。光が光の上に。アッラーは彼の光に御望みの者を導き給う。そしてアッラーは人々のために譬えを挙げ給う。アッラーはあらゆることについてよく知り給う御方。》クルアーン御光章:35節
序文
アッラーに讃えあれ。彼こそ灯火がその中にある壁龕の如くかの御方そのものの叡智の光によって真智者の胸を照らし、かの御方の属性の神秘の大海に身を浸す者たちの首を眩いほどに輝く知の真珠によって飾り付け給う御方。その[真智者の胸は]まるで意味と解明[の周りを]を巡る惑星の如く。夜と朝を分かち、明け暮れに[被造物]の輪郭をお創りになる御方である預言者ムハンマドに祝福あれ。彼こそ[アッラーによって]禁じられた行いを明らかにし、許された行いを許される、開扉者[であるアッラー]に愛される御方。また救済と成就の喜びへと導き給う清く正しき彼(預言者ムハンマド)のご家族、繁栄と長寿の軌道を指す星の如き完全なる彼の教友の上にも祝福あれ。
さて、病み患う卑しき貧者、まったくつまらぬ存在にすぎぬこのイスマイル・メヴレヴィー・アンカラヴィー…アッラーよ、彼に具象・概念の諸神秘を開示し給え…は言う。或る日、私はよく赦し給う威力比類なき御方であるアッラーの啓典を詠んでいたが、御光章のところで目が留まった。私はそこでしばし熟考しその意味を考えていた。そして、私はその神秘の混沌の中に身を沈め、そしてそこから貴き奥義の玉石を取り出し、溢れんばかりの貴石を見出した。これは求道者たる王の宝物庫の中にもほとんどないものであろう。ましてや流浪人の宿になど!まるで失われた秘宝を見つけ出したかのように私の心は踊り、不安は肝から消え去った。
そこで私はさらにいくつかの啓典注釈書―カーディー[1]、『Kashshāf』[2]、『Ma‘ālim al-Tanzīl』[3]などを参照し、この病み患う私が望むものを求めた。しかしこれらの注釈書にはほんの少ししかこの[光の啓示]の意味は示されていなかった。私は狼狽し、ただただ悲しみに打ちのめされてしまった。ああ、驚くべきこと。なぜ真理と有徳の人々のうちの者はこのように崇高にして優美、高貴なる章句についていかなる書物、書簡も著していないのか。何たることだ。どうして彼らはこの[光の啓示]の神秘の微細についての見解を提示せず、この[光の啓示]に秘められたものの解明に目を向けようとしないのか!
また或る日、私は[この光の啓示の]神秘の真理について扱った論考を目にした。この論考は『光の壁龕』と名付けられ、大思想家である「イスラームの明証」によって著されたものである。この論考では、彼は哲学者の言葉に則った様々な[光の]意味を並べ、真智者の用語に則って様々な隠微なるものの種類を提示しているものの、アッラーが私に開示し給うたところの神秘についてはこの[『光の壁龕』]には見出せなかった。なぜならばクルアーンとは波立つ大海、光溢れる太陽だからである。《たとえ地上の全ての木がペンで、一つの海と、その後に七つの海がそれに(インクを)注いだとしても》[4]よく赦される威力比類なき御方であるアッラーの御言葉の諸神秘は尽きなかったであろう。
私は取りこぼし、作業の遅れ、欠損の無いように手許にある真珠に糸を通し整え、貴石をしっかりと編み込こんだ。そうして、この[真珠・貴石は]真智者の御首[に捧げるため]の首飾り、アッラーの親しき友のうちの王、清らかな者達の証、導きの星の極、[正当なる]歴代の[真知者の]円の中心、真理の園におわす孔雀、消滅と持続の神秘の真珠きらめく大海の師、マウラーナー(ジャラールッディーン・ルーミー)様…アッラーよ、彼の御言葉の真理、至高なる彼の本体の神秘によって我々を聖なるものとし給え…に[従う]者達の貧者の心の糧となるのである。
かの御方こそ目標、[彼を私は]求め、望みを託す
かの御方の名前は愛に溢れる者のもの
かの御方こそ不安に怯える者の[心]を満たし、希望[を与える]宝物
かの御方より望みのものは得られよう
主よ、敬虔なる者の心のガラスをマスナヴィー的神秘の灯火で照らしたように、我々と二つ世の同胞たちの良心の奥底、考察の心眼を概念的光によって照らし給え。
私は本書を『神秘の灯火』と名付け、以下の四章に分けた。即ち第一章は光とその本性について、第二章は灯火、壁龕、ガラスについて、第三章は祝福されしオリーブの木について、第四章は始まりから終わりへと導きについて。真智者と有徳の主の諸君には、どうか[私の]筆が滑った点や[私]の足が踏み外した点についてはお許し願いたい。多くの者が知るように、アッラーの神秘を理解するというのは全く難しいものだ。アッラーよ、我々の同胞全てに清らかな飲み物[5]を飲ませ給え。我々の心、聴覚、視覚、内臓、四肢を光で照らし給え。